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ある授業の思い出

  • 2010-11-17 (水)

小学校1年生の頃の授業なんてほとんど記憶にありませんが、ただ1つ強烈に印象に残っているエピソードがあります。それは算数の授業の中で「個数の数え方」を扱ったときのものです。

教科書にイラストが描かれていて「ほんはなんさつありますか」という問いに対して「5さつ」、「みかんはなんこありますか」という問いに対して「3こ」などと答えるもの。特に先生が強調したのは「なんさつ」という問いには「~さつ」、「なんこ」という問いには「~こ」と答えなければいけませんよ、という部分でした。

授業の終盤に先生はオリジナルの問題プリントを配り、その問題をノートに解くように言いました。解けたら先生のところに持っていきすべて正解なら帰ってもよいという勝ち抜けシステム。みんな競うように問題を解いていきます。算数の得意な僕も特につまることなく順調に答えを書きすすめ、いよいよ最後の問題です。

「りんごはいくつありますか」

さっそくプリントに描かれているりんごを数えました。りんごの数はちょうど10。「いくつ」と聞かれているわけですから、この日の授業で僕の頭の中に構築された完璧な理論を駆使すると答えはこうなります。

「10つ」

じゅっつ??

あるのか。この言葉。少なくとも6年間の人生の中で耳にしたことも口にしたこともない言葉です。しかしここで信じるべきは己の短い人生経験よりも授業で学んだ理屈の方。解答欄に大きく「10つ」と書いて意気揚々と先生のところに持っていきました。結果、

「うーん、"じゅっつ"という言葉はないよね。はい、やり直し」

すごすごと席に引き返すはめに。いや、うすうす気づいてましたよ。さすがに「じゅっつ」はないよね。でもここは応用力のある池田少年です。別の問題の中で果物は「こ」と数えたことを思い出し「10こ」と解答を書き換え、これで完璧と再び先生のもとに行きました。

「残念。「いくつ」と聞かれてるから「こ」で答えちゃだめだよね。はい、やり直し」

これはね、おそらく僕が人生で初めてぶつかった壁でしたね。最強の矛で最強の盾をついてみろと言われた中国の商人に勝るとも劣らぬくらいおろおろしてしまいました。まわりを見渡すとこれは僕だけではないようで、クラスの誰もが最後の答えを間違えて先生からノートをつき返されています。意地になったツワモノたちはついにしりとりで言葉が浮かばないときでおなじみ「しらみつぶし作戦」を実行し始めました。「10あ」「10い」「10う」…。ちなみにこの作戦はすぐに先生によって禁止令が出されましたが。

そんな中、それほど算数が得意ではないひとりの子が先生にノートを持って行きました。彼のノートを見て先生は一言

「正解、帰ってよし」。

このときクラスに起こった「えーーー!!」はテレフォンショッキングの比ではありませんでしたね。意気揚々と教室を出て行く彼。それをなすすべもなく見送る僕たち。初めて感じる敗北感と焦燥感。いったい何なんだ、答えは。分からない、どんなに考えても全く分からない。

もはや灰になりかけの僕たちをさすがに見かねたのか先生が最後の最後に答えを言いました。

「いいか、「いくつ」と聞かれたときに10より大きい数は後ろに何もつけなくていいんだ。答えは10でいいんだ。10で。」

まさかの「何もつけない」が正解。ある種の衝撃とともに僕はこのとき日本語の奥深いルールを学びました。さらに言うならこのルールはその後の僕の人生で一度たりとも使われることはなかったけど。

大人になった今にして思えば明らかに理不尽。想像するに先生も最後の問題については正直「しまった」と思っていたんじゃないかな。でも盛り上がってしまった手前、苦し紛れにああいう答えにしたというのがホントのところではという気もするのです。でもこんな何気ない出来事がずっと心に突き刺さっていて、今でもあのときの教室の空気とともによみがえってくるというのは面白いものだなと思います。

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