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鏡はなぜ左右だけを反転させるのか

  • 2009-12-03 (木)

鏡に映った像は左右反対になるのに、どうして上下反対にならないのか。」

どれほど昔から言われていることかは定かではないですが、僕が中学時代に読んだ本にはすでに書かれていましたから、古くから有名なパラドックスなんだと思います。

素朴でありながら誰もが答えに窮するこの疑問は、物理学者から心理学者までさまざまな人を巻き込んだ議論となり、中には「人の目が左右についているからだ」という大真面目な説もあったとか。

いま僕の中で落ち着いている結論を説明します。

実際の自分と、鏡に映った自分は、「右手」と「左手」のように3次元の世界でどのように移動させてもぴったり重ねることは不可能なものです。直交する3つの軸(x,y,z)をとってみると分かりやすいですが、実像と鏡像についてどれか2つの軸を重ねたとき、残り1つの軸は必ず逆の方向を向いてしまいます。

20091202_01.gif

実像と鏡像を比べたとき、

「x軸の向きが逆転しているが, y, z軸の向きは変わらない」
「y軸の向きが逆転しているが, z, x軸の向きは変わらない」
「z軸の向きが逆転しているが, x, y軸の向きは変わらない」

という3つの言及はどれも正しく、かつどれかが取り立てて特別に正しいわけではありません。何が反転していると見るかは、逆に言えば「どの2つを重ねるか」次第なのです。

20091202_02.gif

ここで再び鏡に映った自分の姿の話に戻ってみます。大きな姿見の前に正面を向いて立ち、鏡に映る自分の像と向かい合っている様子を想像してみてください。3つの軸はx軸が左右方向、y軸が前後方向、 z軸が上下方向に対応しているとします。

実際の自分と鏡の中の自分を比べるとき, 人は頭の中で2つの像を動かし重ねようとします。そのときほとんどの人が実像と鏡像が同じ方向を向いて並んで立っている姿をイメージします。閉じている本を開くように二つの像を動かし、体の前後(y軸)と、上下(z軸)をそろえる。このとき反転しているのは左右(x軸)となります。これが一般的な「鏡像は左右反転している」のイメージです。

しかし先に述べたようにこの重ね方は決して絶対的なものではありません。仮に体の左右(x軸)と上下(z軸)を動かさずに2つの像を重ねて見ましょう。鏡の奥にそのまままっすぐ進んでいき、自分の像とピタッと重なる感じです。このとき反転しているのは前後(y軸)となります。映画「ターミネーター2」で銀色のターミネーターの後姿がモーフィングして正面姿になるシーンがありましたが、あんな感じで前後がグニョンと入れ替わった自分をイメージするのです。このニュアンスがつかめると鏡像は左右ではなく、前後を反転しているように確かに感じられます。

最後に体の左右(x軸)と前後(y軸)を重ねるような想像をしてみましょう。このとき反転しているのは上下(z軸)となります。この上下反転が感覚的に一番捕まえにくいですね。例えば湖面に映し出された風景を想像すると分かりやすいでしょう。その風景画を描く画家は実像と上下反転された景色を見ることになります。あるいは鏡張りの床の上を歩いている自分を想像してみましょう。鏡にうつる像は前後、左右をそのままで体の上下が入れ替わります。このイメージを保持したまま、改めて鏡の中の自分と向き合ってみると鏡が上下を入れ替えている感じがつかめてくるはずです。

慣れてくると鏡の前に立ち、カチッ、カチッと視点を切り替えることができるようになります。だまし絵と同じで1つの視点に立つと前の視点が見えなくなる。この切り替わりはとても面白い。

大切なのは、上に述べた3つの認識、左右反転、前後反転、上下反転はどれも全く同等だということです(もっと言うなら任意の角度を持った平面における反転はすべて同等)。脳内で2つの像をどう重ねるかが違うだけのこと。であればここでの問題は「何故鏡は左右だけを反転させるのか」ではなく、「何故僕たちにとって左右反転だけが"特別に正しく"感じられるのか」ということになります。

その理由はいろいろあると思います。1つは人間の体が左右対称であることにあると言われています。前後、上下を固定させて重ねるのが人の見た目を一番変えないので違和感を覚えないのです。対称性の偏りが認識に影響を及ぼしていることは、逆に対称性を持たない先のxyz軸の図を見ることではっきりします。この図を見てx軸が反転していると感じる人はむしろ少ないでしょう。

もう1つ、これは自説ですが、僕らの脳が左右反転の変換に比較的なじんでいるからではないかと考えます。生活の中で鏡文字を目にすることは多いですよね。レストランのショーウィンドウに書かれた文字をお店の内側から見たり、風で裏返ったのぼりの文字を見たり、あるいは裏向きのテスト問題を透かし読みしたり。そのとき脳の中では自然に左右反転置換が行われます。この経験の積み重ねが僕らに鏡像は「左右反転」という考えを刷り込ませている側面もあるのではないかと思います。

今回この文章を書こうと思ったきっかけは、京大の学園祭で後輩が「鏡文字を書く」というのを芸としてやっていたからです。客からお題をもらい、その字を透明のアクリル板に客からみて正しく見えるように素早く書くというもの。なかなか面白いところに目をつけたなぁと感心していたのですが、これを見て僕は1つ面白いアイデアをひらめいたのです。1回目は普通の鏡文字を、2回目は普通に鏡文字ではなく、「逆さ」の鏡文字を書いてみたらどうかと。意外性があるし、客からは1回目よりもはるかに難易度が高く見えるはずだからです。

20091202_03.gif

実はこれは錯覚です。逆さ鏡文字は反転軸をずらしただけですから、通常の鏡文字を描くのと難易度としては全く変わりません。にも関わらず見ている側には「左右反転」+「180度回転」という2倍の難しさを持っているように見えるというとてもおいしい芸になるのです。このアドバイスは実際に採用されていましたが、結構盛り上がってましたよ。見ている人でこのことに気付いた人はまずいなかったんじゃないかな。

ついでながら、これは芸ではないですが、よく生徒と向かい合って質問対応をしているとき、生徒のノートに生徒からきちんと読めるように字を書いてみせることがありますが、生徒はとても驚きます。そういや昔ポンバーマン対戦でドクロアイテムをとるとキャラクターの動く向きが上下左右すべて逆になるというものがあったのですが、僕はこの病気にかかっても瞬時に頭を切り替えて何事もなかったようにキャラクターを操作することができました。僕の脳はこの手の処理は人並み以上に得意なようです。

Comments:1

catbird 2010-01-23 (土) 08:52

鏡は何故左右逆に写るのでしょうか。空間には、左右の他に上下もあります。上下逆には何故写らないのでしょうか。鏡に写した時、元の形と写った形とは、向かい合って同じ形です。その2つの形は、果たして左右が逆でしょうか。元の物と鏡に映った形とを、同じ向きに向け比べる時、元の物を180度回転させなければなりません。この時、縦軸を中心として180度回転させれば、左右逆になります。逆に横軸を中心にして180度回転させれば、上下逆になります。他に斜めの軸もありますが、何故縦軸を中心に180度回転させなければならないのでしょうか。それは、人間の体が左右対称だからです。元の形と鏡に写った形とを比べる時、両者を出来る限り近い形にしようとします。だから頭の中で縦軸を中心に180度回転させているのです。自分の形が上下対称である場合を考えてください。当然横軸を中心に180度回転させて比べてみることでしょう。従って、鏡は左右逆に写るものではないと言えます。

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