Home > 学問 > 大雑把も数学です

« いちばんいい席 | メイン | 緊張と付き合う »

大雑把も数学です

グーグルの入社面接でこんな質問をされるそうです。

「全世界でピアノの調律師は何人いますか?」

さすが世界の知識を司るグーグル、入社するにはこのくらいのことは常識として知っておかなければならないのか、って驚くかもしれませんがそんなはずはありません。まあ「爬虫類アナリスト」なんて職業が実在する世の中ですから、「調律師アナリスト」という人がいてもおかしくはないと思いますが、ほとんどの人は調律師という職業に何一つ関心を持つことなく一生を終えるのが普通です。

では素直に「分かりません」と答えればいいのか。それだと絶対落とされるだろうな。僕にはこの質問の意図が分かる気がします。これは決して正確な答えを求めているわけではないのですよ。例えば上の質問を「京都市内でピアノの調律師は何人いますか?」という質問に置き換えて回答してみます。

まず調律を必要とするグランドピアノは京都市にどのくらいあるかを考えてみます。自分の小学、中学時代の友達を思い出してみたときに40人のクラスの中で家にピアノを持っている人は1人くらいはいたように思う。京都市の人口が200万人、一世帯あたりの人の数を5人とすれば40万世帯、その中の40分の1がピアノを家に持っているとすると京都市の家庭には1万台くらいのピアノがある計算になります。そのほかにもホールや学校のピアノの数をカウントしたとしてもせいぜいあと2000台くらいでしょうか。以上から京都市内のピアノの数を1万2000台と見積もります。

さらにピアノが調律を必要とする機会はせいぜい1年に1回あるかないか、全く調律されないピアノもあることを考えて各ピアノにつき平均2年に1回とすると, 調律を必要とされるピアノは月500台程度。一回の調律の料金が5万円だとすると, 需要は月2500万。ですから調律師個人の収入が月25万と見積もれば、100人の調律師が京都で生計を立てていけることになります。よって答えは100人。

ちなみに上の根拠にあげた数字はほとんどがでたらめです。詳しくネットで検索をしたところ京都市の人口は本当は150万人、世帯数は66万世帯らしいです。そしてどう考えても京都市内に調律師100人は多すぎる気もする。しかしこれはきちんと面接官の求める答えになっているのだと思います。正確な数字なんて調べれば分かる。この問題の本当の意図は結論にたどり着くまでにどのような根拠を立て、それを元にどのような議論をするのかにあるのです(たぶんね)。

小学生から中学生にかけて「数学とは必ず答えが厳密に求められる学問である」という考え方を植えつけられます。計算をすればすべての物事(殺人事件も含む)には1つの揺ぎ無い答えが出せる、といういわば信仰のようなものがある。そういう感覚からすれば上のような大雑把な議論が非常に頼りなく、到底数学とはかけ離れたものに見えるかもしれません。

でも大学で数学の世界に深く入っていくとこれとは全く逆の現実に気づかされます。数学(とりわけ解析学)の問題においてはほとんどの場合厳密な解を求めることなどできないのが当たり前なのです。そういう問題に対しては大まかな値を見積もるしかない。実はこのとき本質的には上の調律師の数を調べる議論と同じようなことをします。

この見積もりを数学では「評価」といいます。そして特に高校生が苦手のはこの評価の問題。きっちりと値を求めることはできても、大雑把に値を求めるのは苦手、不思議なものですがそれが現状です。一方でこの「評価」の問題は最近の東大、京大の入試問題では増えているのですよ。さすがに調律師の数は問われませんが、何年か前に東大で出題された「円周率が3.05より大きいことを示しなさい」というのはまさにそれですね。

数学は「等号(=)の学問」ではなく「不等号(≦)の学問」です。

今日の一言
数学の目的は答えを出すことではなく、答えに近づくことだ

Comments:2

海坊主 2008-01-23 (水) 02:19

月に2回くらいの頻度で寄らさせていただいています。
前にこのブログでも書かれていましたが「文章上手いなー」といつも楽しく拝読しています。

なかでも今回の文章は「おおぉー!」と思わされました。
こういう能力が仕事には必要とされているのにもかかわらず多分自分が質問されたらこういう風には答えられないだろうなー、と思わされました。
こういう風に考えるくせをつけると自分の世界が広がる気がしました。

今後とも楽しみにしております。

池田洋介 2008-01-28 (月) 18:47

>海坊主さま
ちょくちょく読んでくれていたのですね。ありがとうございます。

僕もここに書いたようなことをとっさに言うなんて到底できないだろうな。日ごろからこういう頭の使い方ができるようになっておきたいですね。

生徒から聞いたのですが、今年のセンターの化学の試験に原子の直径を問う出題があったそうです。ヒントなしで選択肢から選ばせる。値を覚えている生徒なんていないだろうから、これも何らかの根拠から評価するんだろうけど、、さあ、どうするのだろう。

Comment Form

コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。

Remember personal info

Home > 学問 > 大雑把も数学です

Search
Feeds

Page Top