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開けると閉じる

英語のopen、closeという語が形容詞的に使われたとき、「開ける」、「閉じる」とは少し違うニュアンスを持つことがあります。例えば"open problem"というと、「開けられた問題」ではなく、「未解決の問題」あるいは「現在も討論が活発に行われている問題」になり、逆に"closed problem"は「解決済みの問題」となる。

勝手に想像するには、英語のopenには広大な海原の只中にいるようなどこまで進んでもその先が全く見えない、全体像がつかめないというイメージがあり、closeにはすべての物が完全に把握できる、壁に区切られた部屋の中にいるようなイメージがあるのではないのかなと。日本語の「開放」「閉鎖」という語はこれに近いかもしれないですが、英語の方がもう少し抽象度が高いように思えます。

"open"、"close"という言葉は実は数学用語の中にも登場します。「実数全体」のように果てしなく広がっている数の集まりは"open set"(開集合)であり、「0以上1以下の実数」ような境界で区切られた数の集まりは"closed set"(閉集合)であると言い表します。これは日本語の感覚でも分かるとして、注目すべきは「0より大きく1より小さい実数」のような数の集まりは閉集合ではなく開集合だということです。有限の大きさに収まるものを「開いている」と表現するのは一見非常に不可解に思えますが、それはこの数の世界に住んでいる人の立場を考えれば納得がいきます。「0以上1以下の実数」の世界に住んでいる人は0, 1という数を知っていて、その地点よりちょっとでも外に足を踏み出せば世界からはみ出してしまうことを悟ることができます。いわば世界の境界線を認識できるわけです。ところが「0より大きく1より小さい実数」の世界に住んでいる人にはこの境界線は見えません。自分の住む世界のどこに行っても今いる地点より大きい数も小さい数も見つけることができてしまうのです。この五里霧中をさまようような感覚は英語の"open"のイメージとぴたりと一致します。

単に有限、無限ということとは違う、非常に説明が難しい概念なのですが、それに平易な日常語を当てはめ、すっと頭に落ちてくるようにしてしまった英語ならではのメタファーはなかなかに見事なものです。この語を見るたびに物事の理解によいメタファーがいかに重要なものかを思い知らされ、感心してしまいます。

今日の一言
Open or not open 、that is an open problem.

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