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数学的思考 (その1)

数学っていうのは積み重ねる学問だって言われますね。中学校で習う初等幾何が一番分りやすい例で、まずいくつかの公理と定義があり、それを元に定理が作られ、さらにいくつかの定理を組み合わせて、新しい定理が作られる。そんな風に知識が上に上に積み重ねられていくのが「数学」であるっていうのが一般的な認識。確かにAならばB, BならばCと積み重ねていくのは「論証」の基本ではあります。でもだからといってそれが数学的思考だというのは勘違いなんですね。世の中の数学者は論理の積み木をどれだけ高く積み上げるかを日々考えているわけではない。

むしろ全く逆だと思うんだよね。数学的思考ってのは自分が今立っている土台を疑うことなのです。例えば小学生や中学生が当たり前のようにやっている計算の規則を前にして数学者は考える。分配法則や結合法則ってどうして成り立つんだろう、いやその前に足し算や掛け算って何だろう、いやその前に数っていったいなんだろう、土台に、その土台の土台に、つぎつぎと疑問を抱いていくと、その過程で僕らが知らず知らずに拠り所としてきた足がかりが実はかなり不安定で頼りないものなんじゃないかってことに気付かされるのです。正直これはかなり怖い。今まで子供のころから膨大な時間をかけて高々と積み上げてきたブロックがすべて音を立てて崩れ落ちてしまうんじゃないかという気さえしてしまいます。でもこのプロセスこそがまさに数学なんだな。ユークリッドもこういう思考の果てにどうしても認めざるを得ない事実にぶつかり、それを公理とし、そこからいままでの思考を逆にたどるようにしながら幾何学という一大体系を再構築していったのです。ここからも分るように「論証」の方向と「思考」の方向は実は180度違うものなんです。

例えば小論文なんかで「あなたの欠点について書きなさい」っていう題がよくあるでしょう。これについて考えようとしたとき、「忘れ物が多いこと」、「人の話を聞かないこと」などと自分の欠点をまず挙げてみようとするのが普通の思考。それに対して「そもそも欠点って何だろうか」と問うのが数学的思考なんだね。まず土台をみる。欠点というのは言い換えれば「自分の悪いところ」、じゃあ悪いってどういうことなんだ、その基準は何なんだろう、って具合に下に下に目線をおくると不思議にちょっとずつ考えが深まってくる気がするんです。そこから見えたことを今度は思考を巻き戻しながら組み立てなおすと「論理的な文章」ができあがるわけ。数学的思考だからって何も難しい数式を使うわけではないのね。日常的な思考の中にだって入りこんでくるもので、むしろ「考える」ことの基本ってまさにそういうことなんじゃないかとすら思うのです。

ただこれは一歩間違うと単なる理屈っぽい人になってしまうからご注意を。

「あなた浮気してるでしょう」
「それに答える前にまず浮気の定義を述べてくれ。」

「飲み物はコーヒーまたは紅茶になります。」
「すいません、その「または」は排他的論理和の意味ととらえてよろしいのでしょうか。」

数学者の愛すべき悲しき性。

今日の一言
数学的思考もTPO

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