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ギミック

<手品師>「必要以上に種明かし」とテレビ局を提訴
5月1日20時26分配信 毎日新聞


テレビ番組で手品の種を明かされ、損害を受けたとして、マジシャン49人が1日、番組を放送した日本テレビ放送網とテレビ朝日を相手に計197万円余りの損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。原告側の小野智彦弁護士によると、手品の種明かしをめぐる訴訟は初めてという。
 訴状によると、両局は昨年11月、手品用に硬貨を削ったとして、原告とは別のマジシャンらが貨幣損傷等取締法違反容疑で逮捕されたと報道した。
 その際、日本テレビは、キャスターが手品用コインを使って、たばこがコインを貫通したように見せ掛ける手品を実演し、同時に種明かしをした。テレビ朝日も、別のコインを使った手品の種を明かした。

実際のコインを加工し、仕掛けを施したコインをギミックコインといい、コインマジックをする人であればまず知らない人はいません。手品の世界ではハーフダラーと呼ばれるアメリカの50セント硬貨が良く使われ、アメリカのコインは加工することに対しては法的な規制がないので、ハーフダラーのギミックは数多くあります。しかし日本で手品をするときはなじみのない外国のコインを使うより、やはり見慣れている日本の硬貨を使うほうがはるかに効果的 (あ、駄洒落になった) なのですから、当然日本の硬貨でもギミックを作りたいという欲求が生じます。しかし日本の硬貨の加工には貨幣損傷等取締法という壁があったのです。半年ほど前、日本の硬貨を加工していた手品師がこの法律違反によって逮捕され、手品界に大きな衝撃が走りました。

というのも実を言えば、日本の硬貨のギミックなんてとうの昔から出回っており、事件前はマジックショップのカタログにも堂々と載っていましたし、今でもコインマジシャンの道具箱を見れば大概入っているような代物なのです。僕の友達で財布の中にギミックコインを入れておいたのをうっかりレジで使ってしまい、後で気付いてあわててレジに戻り、「すいません、さっき間違って大事な''記念硬貨''を使ってしまったのでレジを調べさせてもらっていいですか。」と苦しい言い訳をして取り戻したというつわものがいました。笑い話ですが、これだって一歩間違えば立派な犯罪となります。

多くのマジシャンはそれが法律に触れるかもしれないことは認識しながらも、手品以外のことに悪用はしないという良識のもとでギミックを使ってきたわけです。ギミックコインはその存在自体コインマジックにおいてはトップシークレットなので、その''違法行為''はギミックコインの存在とともに秘密のベールで隠されていました。そんな経緯から、マジシャンにとってショッキングだったのは、その逮捕もさることながら、事件の報道によってギミックコインの存在を多くの一般の人が知ることになってしまったことです。それが冒頭に引用したニュースにつながったわけです。原告のマジシャンの中にはテレビに何度も出ているような手品界の大物も名を連ねています。

このニュース、あくまで部外者である手品愛好家の一人として書かせてもらうと、手品師の側の言い分は少し「大人げない」という印象です。もちろん手品師として種の秘密を守らなければならないというのは分かります。しかし、手品というのはたった一つの種が知れてしまったからといって、そのすべてが台無しになってしまうほど底の浅いものではないでしょ。一流の手品師によって演じられる手品というのは、客が例えそのようなギミックがあるという予備知識を持っていたとしても絶対にそれを見抜くことはできないし、同じように驚き感銘を受けるものだと断言できます。手品にとって道具のタネなんてあくまで付随的なものに過ぎず、おしゃべり、目線の動き、客の心理のコントロールなどもっと重要な要素が作用しながら成立しているものです。例えばデパートに売っている手品用品は「誰がやってもできる」が売り文句なのですが、それを素人がやるのとプロが演じるのではその印象は同じ現象を見せられているとは思えないほど違ってきます。その差こそプロの技術であり、手品師の共有する財産です。

ギミックコインの加工の技術というのは驚かされるほどレベルが高いもので、たぶんキャスターが紹介したのはもっとも素人受けするその精巧な機構の部分なのだろうなと思います。それをされると商品価値が下がるっていうのはマジックショップやマジッククッズメーカーの言い分としては分かりますが、手品師までが血相を変えて損害賠償だなんてのはいかにも「大人気ない」。プロならそこはプライドを持って、「そんなのなんでもないよ」と言って欲しかった。「そんなのただの仕掛けでしょ」と。タネを明かされたから「手品がやりずらくなった」なんていうのは手品ってのは種がすべてだといっているようなものですからね。

手品道具のテクノロジーの歴史をみるとこの手のいたちごっこは常に繰り返されていたわけで、例えば昔は目新しいものだった鏡や磁石を使うトリックはいまや誰でも知っている安っぽい手品の代名詞のようになっています。しかしそれでも手品は廃れてないでしょう。それは既存のものを改良したり、さらに新しいトリックを考案していく人の知恵があったからであり、なによりテクノロジーとは関係ないところで常に磨かれてきた見せ方の技術があるからです。僕が手品という芸術をなにより尊敬するのはこの部分なのだな。

ちょっと前にテレビを騒がせていた「マスクマジシャン」の種明かしに対して、多くのマジシャンが彼を非難する声明を発表したのは記憶に新しいところですが、アメリカのマジシャンデビットカッパーフィールドがそのときこのようなことを言っていたのを覚えています。「手品の種というのは過去に多くの人が心血を注いで築き上げた英知であり、それを個人の金儲けのために利用するというのは許せない」。彼は同時に次のように付け加えたのです。「彼が一つの現象について種明かしをしたとしても、私はその同じ現象を全く別のトリックを使ってやってみせることはできる」。この最後の言葉は彼の手品師としてのプライドが言わせた言葉だなと感じます。

最後に付け加えるなら、安易な種明かしによって本当に損害をこうむるのは、マジックショップでも手品師でもなく、それによって手品を素直に楽しむことができなくなる観客、つまりは視聴者なのだということ。テレビのほうもちゃんと考えていただきたいです。

今日の一言
知る権利と同じくらい知らない権利も大切だ

Comments:1

Homeless-T 2010-02-17 (水) 10:13

>安易な種明かしによって本当に損害をこうむるのは、マジックショップでも手品師でもなく、それによって手品を素直に楽しむことができなくなる観客、つまりは視聴者なのだということ。

これ、まさしく同感です!

手品はタネが全てではないというのもホントにそう思います。

関係ないけど、手品って理系の学問と親和性が高い気がしますね

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