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好きな言葉 (その2)

本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ

伊坂幸太郎「重力ピエロ」から。

簡単なことをわざわざ小難しい言葉で語る評論が巷に溢れてます。この間、公務員試験の勉強をしている人から"文章理解"の分野の問題を見せてもらいました。短い文章を読んでそれについて作者の考えに近いものを五択で選ぶような出題形式。さすがにこんな短い文章なら簡単だろうと思ってやってみたのですが、ビックリしました。何がいいたいのかさっぱり分からない。居酒屋でくだ巻いてるおっさんの言葉の方がよっぽど分かり易いんじゃないのかな。少なくとも何か伝えようとする姿勢は上な気がするね。もちろんその文章を書いた人は僕よりずっと能力があって、深く物事を洞察している人なんだと思う。だから僕の読解力がないといわれれば、はい、すいませんと言う他はないんだけど、僕だって文章の読み書きは人並み以上にしているし、それなりに物を考える力も持っているはず。そんな標準的な日本人に何も伝えられない文章に果たしてどれほどの意味があるのかって考えちゃうわけです。もちろんこれは文科系だけの問題ではなく、むしろ理科系の人にこそ当てはまることかもね。数学者や物理学者が語る言葉なんて一般の人にはスタートレックのクレンゴン人が話す言語のようにしか聞こえてないよ、絶対。文科系と理科系の人たちは同じ部屋の両端で学問をしてるにもかかわらず、中央にどんどんバリケードを張って互いの声を聞こえないようにし、一般大衆にいかに難しいことを言うかを競い合っているんだな。

「命の尊さ」や「環境問題」を偉い人が眉間にしわ寄せながら訴えたって、僕らにはちっとも届いてこない。本当に深刻なこと、本当は難しいことは、陽気に軽やかに伝えられるべきなんだ。全くその通り。そういう「言葉」を持つ人を僕は心から尊敬します。

「寺田寅彦」。僕の大好きな随筆家。この人は物理学者でもあるんだけど、アインシュタインの"奇跡の論文"が物理学のパラダイムを180度変えてしまう1905年以降の激動の時代をど真ん中で生きた人です。ちょうど物理学がどんどん一般人の手の届かないところに行きかけていたころなのね。このとき寺田寅彦はその物理学を難しい言葉なんて一切使わず、鋭い感性と機知に溢れた文章で一般人に向けて語ったんですよ。彼の随筆は今ではインターネットでも簡単に読めるので是非読んでみてください。100年近く前の文章だなんて到底思えないはず、本当に分かりやすくて面白い。彼の語る言葉は理科系と文科系の壁も、学者と大衆の溝も、世代さえも難なくふわって乗り越えてしまう。そんな軽やかさを持ってます。

「チャールズ・チャップリン」。言わずと知れた喜劇王チャップリン。冒頭の言葉がこれほどに当てはまる人はいないだろうな。人生の悲哀や戦争の愚かさといった重く深刻なテーマを、説教くささも湿っぽさも微塵も感じさせず、あくまで陽気に軽やかに笑いの中で演じあげる、それがストレートに胸に届くんだね。これができるのが天才の芸なんだって思います。無声映画にこだわり続けたチャップリンが初めて肉声で語った「独裁者」のラストシーン、現代を生きる僕たちにまっすぐと突きたてられたナイフだよ、これは。

僕が遠い目線の先に常に置いているのは実はこの2人なんだ。靴の底のゴムのところにも及んでないけどね。

今日の一言
難しいことを楽しく、つらいことは笑いながら話せる人でありたい

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