池田洋介日記帳
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2003年9月4日(木) 終演!
生まれてはじめての自主公演、アンシンメTRICKが終了しました。入場者数はのべ189人。50人で満杯になる劇場だけに毎回立ち見が出るほどになりました。遠くから来ていただいた方々もいて本当にありがとうございました。

今回はすべて新しい作品で公演にのぞみました。作ったときは「これはいける」とかなり自信満々だったのですが、公演の日が近づくにつれてどんどんおもしろいのかどうか分からなくなっていき、前日の通しリハーサルなんかは本当にこれで大丈夫なのかとかなり不安でした。初回の公演なんてほとんど感じがつかめないまま終わってしまったのですが、それでも公演を重ねるたびに少しずつお客さんの反応が分かってきて、2回目以降はずいぶん余裕をもって演技できたのではないかと思います。

アンケートの感想は総じて好評で「80分が短く感じた」「引き込まれた」というものが多かったのは素直にうれしかったです。ただやればやるほど問題点や荒が浮き彫りになっていくのも確かで、今回もたくさんの反省点があります。

以下は自分ダメだし。

内容に関しては個人的には満足できるものができたと思っています。ただできあがったものを見たとき、オリジナリティーや意外性という点に関してはまだまだだなと感じます。随所に池田洋介の独自性を散りばめたつもりですが、きれいにまとめようとしすぎてどうしても既存の枠の中で収まってしまっている、そういう反省があります。知らず知らずの間に小さくまとまろうとしていたかな。「well-made」であることも大切ですが、もっと果敢に誰もやっていないことに挑戦してみるべきだなと思いました。

お客さんを扱う技術に関してはやはりまだまだ。特に無言の中でお客さんをひきつけるのは本当に難しいなと感じました。僕の芸はある意味かなり音楽に助けられている点があって、それが僕の独自性の一つでもあるのですが、やはり無言、無音の中でもお客さんの心をつかめる技術を身につけていきたいと思います。これはやはり経験ですね。がんばろう。

ちなみに今回の作品で僕が一番気に入っているのは「虚構」のビデオネタと、初めて作ったコント作品の「アンシンメトリカルな日々」。僕は緻密に計算され、作りこまれたネタというのが大好きで、この2つなんてまさにそういう作品でしょ。前半で丁寧に伏線を張っておいて、後半で畳み掛けるように種明かしをする。そのときのお客さんの「あ、なるほど!」という反応がすごく好きなのです。これからもこんな作品はたくさん作っていきたいです。

いろいろありますがやはり「公演をやってよかった!」というのが最終的な感想です。たくさん失敗もしたし、たくさん恥もさらしたかもしれないけど、その中で多くの経験を踏むことができました。そしてそれは確実に次につなげていけるものだと思います。終わってすぐですが、僕は一刻も早く次の公演の準備に取り掛かりたいくらいの気持ちでいます。

最後に今回の公演で(もちろんキャストの2人も含め)たくさんの人たちの協力がありました。僕のわがままにこんなにたくさんの人たちが付き合ってくれていると思うと本当に感無量でした。どうもありがとう!そしてもし次があれば(できれば)またよろしくお願いします。
2003年9月6日(土) 発車時刻の二重性
2週間ほど前ジャグリングのイベントに仙台に行きました。その帰りに東京駅で僕はあるささいな発見をしました。

東京駅では新幹線を乗り換えなければなりません。東京駅はとにかくいろいろな路線が集まってくるところなので、自分がのるべき電車を探すのも一苦労です。切符をみると僕の乗るべき新幹線は「19:37発」と書かれています。そこで電光掲示板をみて19:37発の新大阪行きの新幹線を見つけ、目的の電車に無事乗ることができました。

座席に座り一息ついてふと時計を見ると、19:25分です。いったいこの新幹線は何時にこの駅を出発するのだろうと思い切符をみると「19:37発」と書かれています。ってことはあと10分ほどあるんだなと読書にでも取り掛かろうとしたとき、僕は自分の馬鹿さ加減に気づいたわけです。

「19:37」という数字を僕はほんの1分前までそれこそ頭の中で何度も唱えながらこの電車を探していたわけなのです。にもかかわらず僕はこの数字がこの電車の発車時間であるという明白な事実をすっかり忘れ、「19:37発の電車の発車時刻」を調べるという愚行をしてしまったのです。僕の友人で「来週の水曜日って何曜日?」という名言を残した奴がいましたが、それに匹敵する一人ボケをかましてしまいました。

しかし何故こんなことが起こったのかと考えるとこれはなかなか面白いのです。僕は最初「19:37」という数字を見たとき、それは自分が乗らなければならない電車を特定する記号として認識していたのです。しかし同時にもちろんその記号は電車の発車時刻を表す数字でもあります。つまり「19:37発の電車」といったときこの数字は電車のアイデンティティーでもあり、発車時刻でもあるという不思議な二重性をもっているわけです。僕はその2つを分離して考えてしまっていたのです。それがどうしたといわれそうなことなのですが、この発見に少しうれしくなりました。

一つの言葉がアイデンティティーでもあり特質(プロパティー)でもある。そんな例は他にないでしょうか。思わず頭の中でいろいろと探してみました。例えば買い物に行く子供に母親が「お肉屋さんで100グラム200円の牛肉を買ってきて」と頼んだとします。そのお肉屋さんは行きつけのお店だったとすればこれだけで子供にはどの肉を買うのかは伝わります。この場合は200円は値段を表す数字でもあり、同時に買うべき肉のアイデンティティーにもなっているわけです。

子供がお肉屋さんで「この200円のお肉いくらですか?」と聞く光景を眼に浮かべるとなんかほほえましいです。
2003年9月14日(日) 観劇
今週末は2つの舞台を見てきました。

1つはシアタードラマシティーで行われていた「黒い服の女」。イギリスを舞台にしたゴシックホラーです。この演劇に僕が惹かれたのはこれがたった2人の役者だけで演じられるお芝居であるというところ。込み入った話を2人だけでどうやってやるのかが興味津々だったのですが、その演出はお見事でした。舞台の中央に大きな籠がおいてあるのですが、あるときはそれはテーブルになり、あるときは馬車の座席になりと場面ごとに違う意味をもたせるところなど実に巧妙。照明の使い方一つで同じ舞台が違うシーンに使い分けられるところなど舞台のマジックを味わうことができました。

構成も観客が「芝居をしている芝居をみている」という構図がなかなかユニーク。内容は悪く言えばよくある怪談の類(弟切草を思い出してしまった。。。)なのですが、やはり展開がうまいな。ただオチが途中で読めてしまうのが少し残念。オチをうまく引っ張ってくれればもっと最後にぞっとできたのにな、と思ってしまいました。

もう一つはいいむろなおき氏のマイム公演「オボロゲナキオク」。マイムのステージをみるのは(実をいうと。。)初めての経験だったのですが、その表現力の豊かさに驚きました。なるほど、これが本物なのかと。もう一つ驚いたのは僕がマイムに求めていたイメージそのものがまさにそこにあったこと。おこがましいのを承知で書けば、いま僕が目指している方向もまさにこの作品を同じ方向を向いているのだな。もちろん表現力や技術力は比べるべくもありませんが、達することのできない領域ではないはず。すごくいい刺激になりました。
2003年9月18日(木) マイペース
「世の中のスピードは速すぎる。マイペースで生きましょう!」なんて言葉はいつの時代も言われているような気がしますが、思うにゆっくりのんびりやるのが「マイペース」というのはかなり一方的な見方ではないかなと。ちなみに僕のマイペースは世間のスピードよりよっぽど速いです。一番分かりやすいのは歩くスピード。とにかく僕は普通に歩いていてもかなり速いのです。どのくらい歩くのが速いかというと、動く歩道と並行した普通の道を歩いたら、動く歩道の上を歩いている人よりもさらに速く歩ける自信があるくらいです。東京駅のサラリーマンやニューヨーカーがどんなに歩くのが速かろうと僕は絶対負けません。

それでたまに人と一緒に並んで歩いたりするとすごく疲れるのです。ゆっくり歩いているんだから疲れるというのはおかしいと言われそうですがこれは事実。僕は別に速く歩こうとおもって速く歩いているわけではなく、それが自分のペースだからです。自分のペースより速く歩いたら疲れるというのと同様に、スローダウンするのだって同様に疲れるのです。

「スローライフ」などといって世間は何故か足並みをそろえてゆっくり歩こうとしていますが、それはそのペースが合っていると思う人が勝手にやればよろしい。僕はマイペースで進むのです。
2003年9月20日(土) 数学用語の語感
大学1回生の数学の授業でひときわ崇高な響きを持った言葉があります。

テーラー展開

いかにもおれは大学の数学をしているんだという実感を感じることができる用語です。

友達が数学の問題を解いているときに、その問題を一目見て「そんなのテーラー展開すれば終わりだよ」などと言ってみると、例えちっとも終わりではなかったとしてもなんとなくすごいことを言っているような気がしてきます。そして言われたほうも、そうかそんなものかなと思わず納得してしまうという、そんな魔法の言葉なのです。

ところでこの用語が何故これほどまでみんなに愛されているかというと、その理由の一つに単純に「語感が気持ちいい」というのがあるのではないかと思うのです。

てーらーてんかい

何度か言ってみると「t」の韻が実に心地良く感じられます。これが英語ではそうはいきません。「Taylor expansion」ではいかにも学術用語っぽいギスギスした響きになってしまいます。数学の講師をしているといろいろな数学用語を実際に発音することになるので、その語感に結構敏感になるのです。言っていて気持ちのいい言葉はついつい何度も使いたくなってしまいます。

最近のお気に入り用語は数列で出てくる

部分分数分解(ブブンブンスウブンカイ)

「ブ」の繰り返しがリズミカルで、意味は分からなくても楽しくなってしまいます。

ちなみに僕の好きな数学用語No1は大学の代数ででてくるこの用語

可換環(カカンカン)

どうだ、目もくらまんばかりの高等数学にあって、このあっけらかんとした響き。もはやこれはダンダダンやキキキリンのレベルに達しているといっても過言ではないでしょう。代数の問題で可換環がでてくると思わず笑みがこぼれてくるのは僕だけではないはず。

難解な学術用語をこんな視点で観察してみるのも面白いものです。
yosuke@juggling-donuts.org
 
 
 

Akiary v.0.42